「‥‥時々、思うんだ」
その時、隣を歩いていた藍河くんが、ふいにぽつりと呟く。
「きっとこの先の人生でも、夏が来る度にこうして映画部のみんなと過ごした事を思い出すんだろうなと」
(藍河くん‥‥)
「うん‥‥そうだね。私もきっと同じだと思う。合宿所で体力作りにヘトヘトになった事とか、たぶん絶対忘れないよ」
「はは‥‥まずそれがくるんだな」
「藍河くんは、実は結構体力があるよね。合宿所周りを走った時も、全然息が上がってなかったし」
「個人的に映画の撮影をしていた事もあるし、基礎体力作りは以前から行っていたんだ。それに、見た目の印象と違うと良く言われるが、実は体を動かすのは結構好きだし」
「へええ、そうだったんだ!」
「私としては、@苗字@さんがおにぎりを作ってくれた事が思い出深いな」
「あはは‥‥あの時はみんなの口に合うか心配だったけどね」
私達が思い出すのは、とある映画を撮っていた時の毎日だった。
「‥‥‥‥‥‥『ミルキーウェイにお願い』」
呟く藍河くんの声には、どこか感慨深そうな響きが混じっている。
「何年も経ってないのに、あの映画の事がもう懐かしく感じるのはどうしてだろうな」
眼鏡の向こうで、藍河くんがまぶしそうに目を細めた。
‥‥きっと私も、同じような表情をしていると思う。
『ミルキーウェイにお願い』は、私が映画部に入ってすぐに制作に着手した作品だ。
合宿所のある学院所有の離島で偶然脚本を発見し、手直しをして、撮影に望んだ。
私達だけじゃ手が足りなくて、藍河くんは最初、助っ人として映画部にやって来た。
だけど、『ミルキーウェイにお願い』は“いわくつきのシナリオ”と呼ばれる、特別な脚本だった事がわかって‥‥。
「‥‥あの時は、本当に色んな事があったね」
「ああ‥‥‥‥今でも時々、あの時の事を反省する時がある」
少し低めの藍河くんの声に、私は微笑みだけを返した。
「さ、もうすぐ部室だな。今日も部活、頑張ろう、@苗字@さん」
「うん、そうだね!」
「少し遅くなってしまったし、宮瀬部長も宙くんも、もうみんな待っているかも‥‥」
「‥‥ところで、最後に1つだけいい? 藍河くん」
「ん? なんだ?」
「あの時は色々事情があったけど‥‥‥‥藍河くんに押し倒された事も、きっと夏が来る度に思い出すと思う。私」
「‥‥‥‥!」
藍河くんの頬が予想よりもずっと真っ赤になったから、私は思わず声を上げて笑ってしまったのだった。
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